「もう、辞めたいのかもしれない」
そう思うようになったのは、何かが劇的に悪くなったからではありませんでした。誰かにひどいことを言われたわけでも、業務が急に増えたわけでもない。ただ、朝起きて制服に袖を通すとき、以前よりもほんの少しだけ、呼吸が浅くなっていることに気づいた。そんな、些細な変化の積み重ねでした。
でも、その時のわたしは、自分のその気持ちに「退職」という名前をつけることができませんでした。辞めたい理由を並べてみても、「人間関係が少し疲れる」「体力が追いつかない」といった、どこにでもあるような言葉ばかり。そんな理由で辞めていいの? と、自分自身に問い詰めては、答えが出ないまま一日をやり過ごす。そんな日々が続いていました。
今回は、辞めたいという思いがまだぼんやりとしていた頃の、わたしの心の機微について綴ってみたいと思います。
看護助手のお仕事を辞めようか迷うとき、わたしたちはどうしても「誰もが納得するような理由」を探してしまいがちです。「家庭の事情で」「資格取得のために」「他にやりたいことができて」。
でも、本当の理由は、もっと言葉にしにくい、泥臭いものだったりします。病棟の独特な匂いに疲れちゃったとか、ナースコールの音が夢に出てくるとか、先輩の何気ない溜め息が心に冷たく響くとか。そんな、履歴書には書けないような小さな「しんどさ」が溜まりに溜まって、もう一歩も動けなくなっている。
当時のわたしは、そんな理由で辞めたいと思う自分を「根性がない」「甘えている」と責めていました。正当な理由がないなら、続けなければならない。そうやって自分に言い聞かせるほど、本来は自分を守るためのシグナルだったはずの「辞めたい気持ち」が、まるで自分を攻撃する凶器のように感じられてしまったのです。
白か黒か、続けるか辞めるか。その二択しかない世界は、とても苦しいものです。
「とりあえず、あと一ヶ月だけ頑張ってみよう」と思っても、その一ヶ月の先にはまた同じ問いが待っている。決断できない自分は優優不断で、時間を無駄にしているのではないか。そんな焦りが、さらに呼吸を浅くさせます。
でも、いま振り返って思うのは、あの「名前のつかない迷い」の中にいた時間も、決して無駄ではなかったということです。
すぐに答えが出なくていい。辞めたいと思っている自分を、そのままにしておいていい。そう思えるようになるまでには、とても時間がかかりました。でも、自分の心が「今はまだ名前をつけたくない」と言っているのなら、それを尊重してあげることも、一つの誠実な対応なのかもしれない。そう気づいたとき、少しだけ肩の力が抜けたのを覚えています。
辞めたい気持ち。それは、あなたが今の場所で一生懸命に生きようとして、でも何かが少しだけズレてしまった時に鳴る、心の警報です。
その警報に無理やり蓋をしたり、名前を変えたりする必要はありません。ただ、「ああ、いま私は迷っているんだな」「辞めたいという気持ちを、抱えたまま歩いているんだな」と、その状態を客観的に眺めてみてください。
わたしは今、あの頃の自分に「焦らなくていいよ」と言ってあげたいです。決断を急ぐことよりも、いま自分の心がどんな音を立てているのか、それを静かに聞いてあげること。それが、いつか納得のいく答えを見つけるための、一番の近道になるのかもしれないと思うからです。
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